読書感想文 覚悟のススメ

覚悟のススメ』(かくごのススメ)は、山口貴由による日本漫画。またそれを原作としたメディアミックス作品。

核戦争環境汚染によって荒廃した近未来の東京を舞台に、旧日本軍で編み出された最強の格闘技「零式防衛術」、人体実験の犠牲となった英霊の宿る鎧、強化外骨格「零」を武器に人々を守るために戦う主人公「葉隠覚悟」と、人類を襲う怪物「戦術鬼」とその背後で人類を滅亡させんと企む覚悟の兄「現人鬼・散」との戦いを描く。

wikipediaより引用

連載期間は1994~1996。

 

 

その作品を今更、つい先日読み切りました。

 

トーリーを要約すると「大災害後の荒廃した地球を舞台に、超人ヒーローになる為にスパルタ教育された兄弟の兄がグレてお父さん殺して地球の自然の為に人類を滅ぼそうとするのでそれを弟が止める話で、主人公は零という戦闘スーツを身にまとい、男性器を武器にする怪人や、全身女性器だから打撃を無効化する怪人、全裸の黒人男性等と臓物巻き散らしながら闘ったりしてピンチになるけど最後は精神論で解決していく」漫画。簡単に言うと怪作ですね。

 

全11巻とさほど多くない巻数の漫画ですが、色々と濃い漫画であり、読み切った時の感想は混沌としたものでした。1巻は絵が下手だなぁとか、4・5巻辺りから既に絵柄がシグルイっぽさ出てきてるなとか、乳房が化け物になってたりチンコが化け物になったり臓物飛び交いまくっててかつそれがギャグじみてるのは世紀末のエログロナンセンス全盛期だからかなぁとか、グロさと児童向けコミックみたいな大ゴマの使い方がシュールだなぁとか、巻末のアシスタントコーナーに毎回オナニーとかちんことか書かれてんなとか、世紀末辺りの漫画っていつも核と自然破壊問題にしてんなとか、漠然と色々と思いました。

で、最終的に抱いた感想が「山口貴由の言語センスってすごいな」です。

前置きが長くなりましたが、今回は山口貴由の言語センスがいかにぶっ飛んでてかつ的確で凄いかという話がしたいがための文章です。

以下、すげぇ!と感じた点を並べていきます。

 

①体言止めと「!」の多用によるインパクトと読みやすさ

状況説明の台詞の殆どが「前方より異形接近!距離17m!」「命中確立200%!」などで力強く宣言される為、まどろっこしさが無く、また独自の世界観の確立に貢献しています。技名も全部「因果!」「螺旋!」「零式超旋回!」みたいな感じで使用者がしっかり宣言します。良マナー。

ヒロインや観戦者が「前から~が来てるわ!」「あの技は〇〇!!」とか言っている凡百な台詞回しが行われていたらテンポが悪くなり、覚悟のススメは設定と絵だけヘンテコな「奇をてらおうとした凡作」になっていたように思えます。主人公から敵からナレーションまで全て力強く「守る!くじけない心」「いざ往かん 新東京番外地」とか暑苦しくサブタイトルみたいな文章が並ぶ、統率感のあるカオスがこの作品を奇作怪作にして歴史に一応名を遺す作品にまで昇華している気がします。

 

ラスボスである兄、散(はらら)様が倒れて行った炎系の仲間の力を受け取った際に「これで私はファイヤー散(はらら)!」とか力強く宣言したコマではその語呂の良さがスッと頭に入ってきた後、ノッリノリのラスボスに大いに笑いました。

 

主人公及びそのサポート役である死した軍人の英霊3000(この設定も狂ってるし主人公と大量の髑髏がどのように戦闘すべきか相談し合うし最終的にお互いを思いやり支え合う戦友になっていく様はシュールの一言)が軍人風の言動をする為この体言止めが多用されるのですが、その英霊が成仏させられた時に零!零!と呼びかけた末に「90キロの鋼応答無し!」「心を繋いだ超鋼応答無し!」などその軍人風文章が出てきたときは、軍人風な無骨な文章を詩的なまでに昇華している!すげぇ!ってなりました。

「当方に人間の尊厳有り!」 とかも格好良いですね。

 

 

②狂ったルビ付け

例を挙げていくと「お美体(からだ)」「お美超鋼(はがね)」「SM(あそび)じゃないのよ」「反抗(ロック)してやる」「謙愛(ボランティア)してあげたい!」「無修正(ぴろりろ)」「肉装甲(ぬいぐるみ)」

 変型パターンでは「救星主」などなど、平常の読み方と国語の義務教育を受けていたら出てこないセンスのルビ付けが常時行われています。内容だけ見ると、人外の敵と殺伐と単身殴り合いし続ける覚悟のススメはその狂ったルビ付けが笑いどころとして機能し、殺伐さが中和され、世紀末ギャグエログロヒーローバトル漫画とでもいうべき怪作として完成されています。

 

 

③台詞回しの語感の良さ

ふたばやSNSでの返信(オタク文化)などで用いられる「何だか知らんが とにかくよし!」

 

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覚悟のススメ内で最も有名なコマですが、これは主人公が燃え盛る炎属性の敵を前に服を脱ぎ全裸になったのを観戦しているラスボスである兄、散様が褒めているシーンです)

はその語感の良さと勢いの良さが好まれインターネットで多数使用されるようになって行きました。上記の画像は8割以上の人が「散様」を知らずに使っていると思われますが、作品や設定を知らなくても面白いと感じれる「語感」「勢い」という単純な言語的パワーを持っている訳です。

汎用性の低さなどから上記のような認知度があるコマは他にありませんが、このような語感の良い台詞は作中大量にあります。「たかが雑草!」「死後硬直望むところ!」辺りが個人的に好き。

 

何だか知らんがとにかくよし!以外にも、「覚悟のススメ」以降、山口貴由の後作である「シグルイ」は2chで「シグルイ風に語るスレ」シリーズができたり、山口貴由が現在連載している「衛府の七忍」ではTwitterなどで「誤チェスト」がぶっとんだ造語として、そしてその語感の良さから面白がられ話題になったりと、今まで数々のぶっ飛んだキャラクターや設定を作っているにも関わらずその台詞・コマを中心に語られてきている時点で、山口貴由は類稀なる言語センスを持っていることは客観的にも、インターネッツの歴史的にも証明されているのではないでしょうか。

 

 

 また、インターネッツの歴史的に証明されている理論でいくとバキシリーズ辺りも言語センスが秀でている作品に当てはまりますが、俺は大真面目にバキシリーズも言語センスが尖って秀でてる作品だと思ってます。全選手入場のシーンなんかは絵面的には誰やねんこいつらってのばっか出てくるパッとしないシーンですしコマ割も滅茶苦茶窮屈なんですが、実況のあの解説の言語センスの良さが故にあれほど有名なシーンになっている訳です。

あと三浦建太郎ベルセルクなんかも良いですね。ドラゴン殺しの「それはまさに鉄塊であった」のポエムは滅茶苦茶格好良くてあれを読んだ全オタクが興奮したでしょうし、あの世界観で「エンジョイ&エキサイティング」を言わせるセンスは時代劇的世界観で「誤チェスト」と言わせる山口貴由と似ている点があると思ってます。

 

 

 

以上、山口貴由べた褒め文章でした。

以前から「シグルイ大好きだし今連載してる衛府の七忍も最高に面白いんだけど、なんか面白い理由が言語化しづらいな」といった悩みを抱えてたのですが、覚悟のススメ読んだら自分の中でこれらの作品のどこがすごいのか納得できたので消化する為文章にしました。4巻辺りまで絵ガタガタだし設定もブレてるけど、この時代から言語センスが尖りまくってたんだこの人、ってなりました。

もうちょっと細かい話をすると四隅に「覚 悟 完 了」って置くシリーズの配置のセンスや、それ以外でも大文字の使い方の大胆さとかも言いたくはあるんですがデザイン面は自信ないのといっぱい著作権法を無視してコマをアップロードしないと説明し難いのであきらめました。

 

あと、最新作の「衛府の七忍」はますます狂って尖っている言語センスに磨きがかかっていて、誤チェスト以外にも最新の造語・スラングと時代劇言語が混ざった超独特の台詞回しが面白すぎるのでお勧めです。髷結った侍や浪人その他ならずもの達が「参りやした!テヘペロでやんす!」とか「牛曳形とかマジ有り得ねぇからな!」とか「伊織は武士の子…心はけして逃げぬ。心は逃げぬが…身体がくそびびりまくっておるのじゃ」とか言ってる絵面は強烈で台詞だけで笑えます。